キャリア

【医師のキャリア/転職】海外留学で学ぶべきこと【訪問診療】

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

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講師になって2年たち、米国留学をすることになりました。

消化器外科に誘ってくれた先輩医師の「留学は楽しいぞ」という言葉を信じて、その先輩医師の留学先だったハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院、放射線医学部門のRakesh K Jain教授のもとに2年間、お世話になることにしたのです。35歳の時でした。

留学中は筑波大学の講師のポジションを休職という形でキープしておくことも許していただけたので、非常に恵まれていました。

ただ、正直行くまでは、気が重い状態でした。

筑波大学での自分自身の位置づけも少し上がってきたところでしたし、子どもも4人に増えていて、家族への影響も多大であると予想されたため、新たな世界に飛び込むことに、恐怖に似た感情があったのです。

留学先では、その頃の日本ではほとんど研究されていなかった腫瘍生理学、腫瘍の酸素化、腫瘍内の圧力、そして今では腫瘍治療に実用化されている腫瘍の血管新生などを研究しました。

英語による専門分野のディスカッションが知見を広める


 学んだことは多く、書ききれないのですが、皆さんに知っていただきたいことを2つピックアップしてみます。

まず研究室には諸外国から多くの見学者が、それも教授クラスの見学者が毎月のように訪れます。

そのような見学者が来ると、研究室のメンバーは交代で30分から1時間、自分の研究について見学者にプレゼンテーションし、そしてその見学者の研究についても話を聞いて、ディスカッションをします。

留学して3か月ぐらいで、このローテーションに入るようになったのですが、これがとてもいいトレーニングになりました。

見学者はその分野での第一人者であることが多いので、いろいろなアドバイスを受けられますし、その方たちの研究のアイデアを聞いて自分の研究に応用できるのです。

また英語による専門性の高いディスカッションを、一対一で30分以上もするという、得難い体験をすることができたのです。

これによって、世界中の知見が得られ、わたし自身のその分野での知的レベルが一気に世界トップレベルに引き上げられたことを実感いたしました。

その後の全米の学会で研究成果を発表するときには、Jain教授から「I do not knowだけは言わないように」と言われ、緊張して臨みましたが、普段から一流の人にプレゼンして、ディスカッションをしていた甲斐あって、10を超える質問にも、何の問題もなく答えることができたのです。

研究留学で触れた一流のセルフモチベーション


次にこの留学生活中にとても印象に残ったことは、病院や大学にいた研究者や医師、さらには研修医の皆さんが、とても機嫌がいいのです。

若い人を指導するときなども、けっして強い口調などにならない。

これはわたしにとって大きな驚きでした。大学病院の研修のところで書いたように、わたしが研修を受けた筑波大学消化器外科には高いレベルで臨床を行い、そして患者さんには徹底的に尽くすという素晴らしい伝統があった一方、看護師さんなどのメディカルスタッフ、さらには若い医師に対してはとても厳しく、時にはつらく当たることがありました。

またスタッフの医師も、非常に気難しい表情をしていることが時折ありました。

忙しい業務の中では仕方ないことなのかなあと理解していましたが、この2年間の留学中には一度も経験しなかったのです。

この体験はわたしのいまの考え方にとても大きな影響を及ぼしています。

一流の人は自分自身の機嫌を自分でしっかりと取り、いつも上機嫌、そして周囲の人、特に若い人に対してとても穏やかに接すると同時に、いつの間にか彼らをやる気にさせているのです。

人を動かすことが恐怖、不安や命令などを使わずともできる人が本当の一流であると悟ったのです。

誰が相手でも一人前として認める


このことをよく表すJain教授の言葉があるのでご紹介したいと思います。

それは、わたしの書いた論文を添削するときには、必ず「なかなかいい論文だね。

でも少し直したほうがいいと思うところがあるのだけど、朱で直していってもいいですか?」

と尋ねてくるのです。

留学開始から半年もたたないうちに、1つ目の論文を書い時にも、このように言われました。

まだまだ英語は稚拙な頃です。直したいところはたくさんあったでしょう。

事実、添削された後は朱で埋め尽くされるのですが、そんな状況でも必ず尋ねてくれたのです。

一人の研究者として、一人前に扱ってくれているなあと実感する、よいきっかけでした。また教授自身の発表においても、自分のスライドを皆に見せて、一人ずつ意見を聞くのです。

それに対してスタッフも必ずなにがしかの意見を述べ、教授も尋ねたからにはその意見を取り入れようと、工夫するのです。

この姿勢には、本当に驚かされました。

「海外留学で何を学びますか?」への私的結論


海外留学は世界一流のところに行き、その世界を体験するのがいいと思います。

それにより、世界一流との交流、自分を上機嫌に保つ方法、平等なディスカッションなどについて、学び取れるでしょう。

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この記事を書いた人 野末 睦
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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門医

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