がんの痛みと薬での治療|在宅医療を選択する患者さんの緩和ケア

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

がんの痛みと薬への不安

在宅医療が比較的認知されるようになってきた昨今、がんが進行してきて、半年以内くらいに最期のときを迎えそうになってきたときに、最期の期間をどこで過ごすかの判断を、病院の医師から求められることが増えてきているのではないでしょうか。

いろいろな選択肢がありますね。今まで治療をしてきた病院や看取りをやってくれる施設、それとも緩和ケア病棟や在宅医を利用しながら、自宅で。

「最期のときは住み慣れた我が家で」と考えている人にとって、最も心配なことは、がんによって生じる「痛みについて」ではないでしょうか。

「今感じている痛みは、これからどんどん強くなってくるのだろうか。それに対して、有効な方法を自宅で講じることができるのだろうか。やっぱり、最後は痛みで七転八倒することになるのだろうか。最後はモルヒネの薬を使うしかないのだろうか。だとしたら、いわゆる麻薬漬けになって廃人みたいになってしまうのだろうか。あるいは訳がわからなくなって、他人を傷つけたりしないのだろうか。」

次から次へとこのような不安が生じて、それを周りに聞くこともできずに、悶々とした日々を過ごすのではないでしょうか。ここでは、がんの痛みについて、基本的な性質、評価法、薬による対処法などをお話しします。

がんの痛みは2種類を10段階で表記

まず痛みの強さは、患者さん自身の自覚に基づいて、0から10の段階で分類し、10を分母とした分数で表記します。

ご本人が痛みを全く感じない状況なら0/10、想像できる最も強い痛みのときには10/10という具合です。

そしてがんの痛みの出現の状況は大きく二つに分けられます。持続痛と突出痛です。

持続痛とは、1日中ほぼ一定の強さで続く痛みのことです。そして突出痛とは、1日のうちに数回、持続痛の上に、更に急に増強する痛みのことです。

ですから、在宅医が診察に入ると、まずこの痛みの強さをお聞きします。

「1日中続く痛みはどのくらいですか?1日に数回襲ってくる痛みが強い時間帯の痛みの強さはどのくらいですか?それぞれを0から10までの数値で表してください。」

すると患者さんは、痛みが強いときは8ぐらいで、比較的痛みが落ち着いているときは5くらいかなと答えてくれますので、カルテには、持続痛は5/10、突出痛は8/10と記載します。

がん患者さんの痛みを緩和する薬「医療用オピオイド」

在宅医が目指す痛みのコントロールのゴールは、持続痛も突出痛も0/10か1/10にすることであり、ほとんどの患者さんで達成されています。そして、このゴールを達成するための切り札が、「医療用オピオイド」と呼ばれているいわゆる麻薬です。 

代表的なものはモルヒネですが、現在は、構造、作用が少し異なるいろいろな種類の医療用オピオイドが開発、提供されています。

詳しいことは医師、薬剤師などの医療関係者が知っていればよいと思いますが、患者さんやそのご家族が、ぜひ知っておいてもらいたい医療用オピオイドのふたつの分類があります。

医療用オピオイドの作用時間

まず作用時間に基づく分類です。薬を飲んだり、貼ったりしたあとゆっくりと効いてきて、そのあとしばらく効果が持続するものです。

1日に2度服用する。つまり12時間ごとに服用するといいものだとか、1日に1度だけ貼り替えればいいものだとかあります。これらは、持続痛をターゲットとして用いられます。投与量を調整することで、持続痛を0/10から1/10にもっていくのです。

そして、持続痛が抑えられても、1日に数回、急な痛みが襲ってくることがあります。

つまり突出痛です。この痛みに対しては、効果がすぐ出現するタイプの薬を使います。これらの薬剤は「レスキュー」と呼ばれています。

急な痛みを「救う」という意味ですね。これらの薬剤は服用してから、早いもので5分。時間がかかっても15分くらいで、効果を発揮します。その代わり、効果がなくなるのも速いのですが。

このゆっくり効くタイプと、レスキューとをうまく組み合わせて使うことによって、1日を痛みなく過ごす事ができるようになります。

医療用オピオイドの投与経路

もうひとつの薬の分類で重要なものは、投与経路の違いです。

お薬は、口から飲んで服用する経口薬、肛門から入れる座薬、体の表面に貼る貼付(ちょうふ)薬、また舌の下で溶かして服用する舌下薬に分けられます。

また、痛みをコントロールするため、皮下に持続的に液体の医療用オピオイドを注入することもしばしば行われます。

がんで病状が進行してくると、しばしば経口薬の服用ができなくなる事が起こります。ですから、在宅医は、経口薬をできるだけ早く、貼付薬に置き換えていくことができないだろうかと、常に心に留めています。

また、きめ細かな投与量の調整などは皮下注でのコントロールが容易なので、行動制限が出てきてはしまいますが、持続皮下注をおすすめすることもあります。

在宅医療を選択するがん患者さんの痛みをコントロール

このように、最近は本当に色々な手段で投与することができて、患者さんはもちろん、我々在宅医療提供者も安心して痛みのコントロールに取り組むことができます。

そしてオピオイドの副作用としては、便秘が代表的ですが、精神的な錯乱に陥ったり、まして他人を傷つけてしまうような精神状態に陥ってしまうことはありません。むしろ痛みがなくなるために、精神的に落ち着いて、食欲が増したりすることすらあります。

医療用オピオイドを在宅の場でも使いやすい時代になってきていますので、痛みのことはあまり心配せずに、在宅医療を選択されるといいと思います。

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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門医

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