在宅医療の費用は多くても月5万が目安|保険制度と実例を紹介

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

在宅医療は医療保険と介護保険でカバー可

「在宅医療は、いったいどれくらいの費用がかかるのか」というのは、切実な疑問だと思います。なかには、そもそも在宅医療は保険診療なのかと心配している人がいるのも事実です。

まず伝えたいのは、在宅医療(自宅での療養で、訪問診療を受けたり、訪問看護を受けたり、訪問介護を受けたり、薬局から薬を届けてもらったり、ケアマネージャーにケアプランを作って貰ったりすること)は、ほぼ全部、医療保険と介護保険でカバーされます。

ただ、それらを実現するための制度はとても複雑であるため、すべてを詳しく理解することはかなり困難ですし、その必要もないと思いますが、大まかなことは知っておきたいですよね。

在宅医療を選択するがん患者さんの費用例

50代前半の女性のお宅に訪問診療に行った時のことです。クリニックとしては2度目の訪問でしたが、子宮癌が進んだ状態で、下半身にひどいむくみがあり、体を動かすのもままなりません。

また、痛みも強く、かなり多量の医療用オピオイドを皮下に持続注入しています。そのような状態にあり、週に1度の訪問診療(医師による診察)には同意していましたが、自宅療養のもうひとつのキーとなる訪問看護については、「家族以外の人にあまり入って欲しくない」ということで、週に2回だけの訪問を希望していました。

通常、患者さんのような状況では、訪問看護は連日、場合によっては日に2度入ることもあります。

「在宅医療の回数を制限したい」という声の多さ

初診の時は、同僚の医師が伺いましたが、全身状態を把握し、適切な薬物量を設定するのに精一杯で、訪問看護のことまでは調整できませんでした。今回は2回目の診察。こちら側にも多少の余裕があり、全体を見渡せる余裕があります。そこで、週に2日しか訪問看護を希望しないということの違和感に気がつきました。

訪問看護や訪問介護の介入を提案したときに、それを断る時、あるいは回数を制限してほしいと言ってくる時の理由として、「色々な人に来られると疲れる」とか、「他人にはできるだけ家には来て貰いたくない」とかの理由が、多く語られます。今回もそうでした。

実際、本当にそのような理由の場合もありますが、よくよく聞いていくと、別の理由であることが多いのです。

在宅医療の回数を制限したい「本当の理由」

訪問看護や訪問介護の介入を断る、あるいは回数を制限してほしいと言ってくる患者さんの多くが、実はお金のことを心配しています。

ただ、直接的に「費用の面で心配しているのですか」とご家族に尋ねると、患者さんへの手前であったり、見栄を張ったりする心理が働いてか、「そんなことはありません」と答える人も多いようです。

そこで今回は、次のように患者さん本人とご家族に尋ねてみました。

医師「〇〇さん、体が思うように動かなくて辛いですね。今までトイレになんとか歩いていけていたようですが、辛さは増していませんか。オムツを使っているようですが、そうすると、お尻を綺麗にしたりするのに、訪問看護に毎日来てもらったほうがいいのではないでしょうか。それに、医療用オピオイドの副作用として便秘が代表的ですが、排便コントロールも訪看さんがよくやってくれますよ。それと、ご存知だと思いますが、高額療養費制度というものがあって、〇〇さんの場合にも、おそらく限度額に引っかかるので、訪問看護に毎日来て貰っても、自己負担は増えないと思いますよ。限度額認定証、持っていますよね?」

このように、看護師の頻回の訪問を促しつつ、高額療養費制度のことを伝えると、ほとんどの人が、頻回の訪問を希望します。実際、今回も「ああ、そうなんですね。それなら是非来てもらいたいと思います。」と返事をもらいました。

在宅医療の費用は自己負担限度額の範囲に収まる

このように、在宅医療、特にがんの末期状態での在宅医療には、それなりの費用がかかりますが、ほとんどの場合、高額療養費制度の負担限度額[図表1]を超えてくるので、それ以上の医療費用の自己負担は無くなります。

[図表1]【70歳未満】高額医療費の自己負担限度額(出典:全国健康保険協会)

負担限度額は、前年度の世帯収入及び過去12ヶ月以内に限度額を超えた支給が行われた回数で決まってきます。役所などで聞いてもらうといいと思います。

日本の保険制度は、この高額療養費制度があるために、高額の医療を受けている患者さんにとっては大変優れたものであると言えます。

それでは、がんの患者さんの場合ではなくて、脳卒中後の疾患などを患った患者さん場合には、自己負担額はどのくらいでしょうか。

在宅医療の費用は保険適用後多くても月5万が目安

まず、クリニックからの訪問診療の場合、計画的に月2回の訪問診療を行った場合、管理料という名目で、45000円くらい。それに1回の診療ごとに9000円くらい、合計63000円くらいかかります。ここに負担割合をかけるので、自己負担が1割の人は6300円。3割の人は18900円になります。

これは、あくまで概算です。医療機関によっては、交通費の自己負担をお願いしているところもあるでしょう。また訪問看護ステーションや薬局からの請求もありますので、増えていきます。総額5万円までいくことは少ないかもしれませんが、そのくらいまでの自己負担は覚悟しておいたほうがいいと思います。もちろん、この場合でも負担限度額以内での自己負担になります。

月に5万円。決して安くはありませんが、病院に入院したり、施設に入ったりすることと比較した場合、いかがでしょうか。

どう感じるかは、ぞれぞれの事情によるかと思いますが、それ以上に人生観にもよるのではないでしょうか。住み慣れた我が家での最期。それを是非かなえたいと考えている方は、色々と厳しい状況かとは思いますが、費用面での備えを少し優先してみることを考えてみてはいかがでしょうか。

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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門医

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