高齢者の理想的な食事とは?在宅医療患者の80%が栄養失調【医師が解説】

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

在宅医療を選択する患者さんの80%が栄養失調

在宅医療を受診する患者さんは、「栄養失調」の人が多いです。いろいろなところで統計がとられていますが、どの調査でも大体80%の人が、栄養失調または栄養失調の恐れがあるという結果になっています。

飽食の日本と言われて久しいと思いますが、高齢者に関しては、とても厳しい現状が横たわっているのです。これはなぜでしょうか。

現在の日本では、若者は極端に太ることを避ける風潮があり、例えば、現在の女性アイドルの体型と、20年ほど前のアイドルとの体型を比較しても、明らかに現代のアイドルは痩せています。

また、いわゆる中年になると、生活習慣病と言われる疾患に罹る人が多く、食事指導といえば、摂取カロリーをいかに減らし、塩分も減らし、ということに注力します。

そのため、「痩せることはいいことだ。」「野菜中心の食事で炭水化物を減らせるだけ減らすのがいい。」という考えが、日本全体に広がっているのです。

還暦後は軽度肥満を目指した食事を

還暦までは、このような考えはとても大事だと思います。しかし還暦を過ぎたあたりから、体重としては軽度肥満(BMI(bodymassindex)で26前後)くらいが理想的だということがわかってきています。

BMIとは体重(kg)を身長(m)の二乗で割って求められますので、ご自身のBMIを計算してみて下さい。

私は現在64歳ですが、体重87kg、身長1.8m、BMIは27となります。今後は、体重を横ばいに保ちながら、筋肉量を維持または少し増やすために、高タンパクの食事を心がけながら、運動をしていきたいと考えています。

このように、還暦を過ぎていても、病気や怪我がない人は、軽度肥満を保つことが比較的容易であると思います。しかし、病気や怪我を患って、その治療後に訪問診療を必要になった人々は、最初に述べたように、栄養失調の状態になってしまった人が80%を占めています。

つまり訪問診療に至るまでの闘病生活で、多くの人が痩せてしまうのです。あるいは、筋肉を失ってしまうのです。

このように、もともと痩せていて栄養失調の状態だった高齢者の方が在宅医療を受けるようになった場合や、もともとは栄養状態がよかった、あるいは肥満気味だった方が、闘病生活で栄養失調になってしまった場合、在宅医療の場では、その栄養失調の状態を、いかに改善していくかが大きな解決課題になります。

在宅医療で高齢者の栄養失調を改善する方法

それには、そのようになってしまった原因を探りつつ対策を講じていきます。原因ごとに解決方法を考えてみたいと思います。

闘病で食欲を失ってしまった方

まずは、食欲を失ってしまったという方への対策です。認知症などで、食事を食事と認識できなくなった場合は仕方ない面もありますが、多くの場合は、体力を失い過ぎてしまったか、味覚が変わってしまった場合が多いと思われます。

疲れすぎて食欲がなくなってしまった経験は、皆さんもお持ちだと思いますが、闘病によって疲れ過ぎてしまったのです。

食事をすると皆さん必ず汗をかくと思いますが、食事をしてそれを消化していくためには運動しているのと同じくらいのエネルギー消費が起こるとの研究結果があるくらいです。

そのため、体力を失ってしまった人は、自分の体力をそれ以上消耗しないために、食欲を失ってしまうのです。このような場合は、点滴から水分と栄養を補給しながら、口にあったものを少しずつ食べ、体力の回復を待ちます。

味覚の変化で食欲を失ってしまった方

抗がん剤による治療など味覚が変わってしまった場合は、難しいのですが、やはり食事に味付けなどを工夫して、食べることができるものを探っていく必要があります。

私のこれまでの経験では、不思議とうなぎの蒲焼を食べることができるようです。あと、最終的には、栄養補給にはなりませんが、氷のかけらを口に含むことを好むようになるようです。

いずれにしろ、塩分制限とか、カロリー制限とか、一切考える必要がなく、いかに食事量を増やすかに主眼を置きましょう。

嚥下機能低下で食欲を失ってしまった方

次に、痩せてしまう原因としては、嚥下機能の低下があります。口の中に食べ物が入っても、飲み込むことができないということです。

あるいは飲み込むことができても、その度に誤嚥し、むせてしまったり、最終的には誤嚥性肺炎になって、苦しくなったりすると、自己防衛的に食べることをやめてしまう高齢者の方が多いのです。

このような場合を疑うときには、嚥下内視鏡を行なって、飲み込みの機能の評価を行い、それによって食事の時の姿勢、さらには食事形態を工夫していきます。

ところが、嚥下内視鏡ができる訪問診療医はかなり限られてくると思います。そのような検査ができない場合には、嚥下障害を持つ患者さんが食事をするときの姿勢のゴールデンスタンダードとされる、座ることができる場合は前傾座位、座っていることができない人には完全側臥位(かんぜんそくがい)をお勧めします。

高齢者の食事には吉野家とマックが理想的

このような工夫を行って、なんとか栄養状態を良好にすることが、在宅療養を効果あるものにしていくキモでないかと思われます。

そしてこのような工夫を始める前には、最初に申し上げた「野菜を食べて、質素な食事をすることが健康につながる」という固定概念を取り払うことが最も重要だと思います。

高齢者の方には吉野家の牛丼、マックのハンバーガーなどは、結構理想的な食事なのです。

そして、このような栄養のサポートがうまくいっているかどうか。それを最終的に判断するのは体重の変化です。

痩せている人でも少しずつ太って、BMI26に向かっているようであれば、とてもうまくいっているということです。

医療法人あい友会では、チームの中枢を担う
医師・看護師・その他スタッフを随時募集しています!

採用情報を見る あい友会をもっと知る
この記事を書いた人 野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦 詳しく見る
総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門医

SNS シェア

コンテンツ一覧