胃ろうと経鼻胃管のどちらがいいか?在宅医療における選択

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

在宅医療における胃ろうと経鼻胃管

在宅医療の場には、食事がうまく取れない、あるいは飲み込みの機能が十分でない人が少なくありません。

そのような人は、栄養を十分に取ってもらうため、入院中に「胃ろう」あるいは「経鼻胃管(けいびいかん)」からの濃厚流動食の投与が行われていることがあります。

胃ろうとは、お腹の上の方、つまりみぞおち、専門的には心窩部(しんかぶ)と言われるところに、胃を腹壁の内側から固定して作成された、胃に通じる穴(瘻孔:ろうこう)のことを言います。その瘻孔に、チューブを通しておいて、そのチューブから濃厚流動食を投与します。

経鼻胃管とは、鼻から挿入されて、先が胃まで到達している細くて長いチューブのことです。

食事が十分に取れない状態で、在宅医療に移行する場合には、病院の医師や医療スタッフから、栄養補給の一環として、胃ろうを造設するか、あるいは経鼻胃管を留置しての人工的な栄養補給の提案を受けることがあります。

その際、患者さんとご家族の選択として、胃ろう造設か経鼻胃管留置か、あるいはそのような人工的な栄養補給を選択せずに、いわゆる自然のままに摂取できるだけの食事だけを摂取して、その結果栄養不良で命を失っても、それはそれで仕方ないと判断する場合もあるかもしれません。

それでも、在宅医療において限られた選択を迫られた多くの人は、胃ろうか経鼻胃管か。その選択に悩んでいることでしょう。

在宅医療の現場から見ると、特殊な場合を除いて、胃ろうからの人工栄養の投与をおすすめします。その理由について、順を追って説明していきたいと思います。

胃ろうと経鼻胃管の違い

まず、胃ろうと経鼻胃管の大きな違いは、喉元にチューブがあるかないかです。

経鼻胃管の場合は、チューブが常に鼻から喉元にかけて存在するので、本人が不快であるばかりでなく、常に嘔吐反射が誘発される恐れがあります。またそのチューブがあるために、ただでさえ低下している嚥下機能がさらに悪化してしまいます。

そのため、経管栄養を行っている時に分泌が増える唾液を誤嚥してしまう危険性が増してしまいます。

さらには、食べ物が通らなくなった口の中は雑菌が増えた状況だと言われています。それを少しでも少なくするために口腔ケアを行うのですが、喉の奥にチューブがあると、この口腔ケアもやりにくくなってしまいます。

綺麗な唾液だと、多少誤嚥をしてもなんの問題もないのですが、雑菌が増えた状態ではそうはいきません。

このように経鼻胃管の場合は、飲み込みの機能をより低下させてしまうことに加えて、誤嚥される可能性のある唾液そのものが汚くなってしまっているのです。

経鼻胃管が抱える「先端の位置」問題

経鼻胃管は、胃管を入れ替える時に鼻からチューブを入れていくのですが、その先端がちゃんと胃の中に到達したかどうか、それを確かめる必要があります。

かつては、チューブから空気を注入して、その音を確認すればいいことになっていましたが、この方法は現在否定されています。先端が気管に入ってしまっている場合でも、同じように音が聞こえることがわかってきたからです。

そのため、現在では経鼻胃管を再挿入した後、レントゲン撮影をして、先端の位置を確認することが推奨されています。在宅の場でレントゲン撮影ができるクリニックは少ないと考えられることから、とても心配です。

超音波検査で先端を確認する方法も開発されつつあるようですが、まだまだ一般的でありませんし、検証も不十分のようです。

そしてこの経鼻胃管の先端の位置問題は、再挿入の時だけではありません。鼻のところでチューブをしっかり固定してあっても、舌や喉の動きによって、チューブを巻き込むように引っ張り上げて、先端が次第に上に上がってきてしまい、喉まできてしまうことや、さらにはそれをさらに飲み込んで、気管の中に入っていってしまうことがあります。

そのような状況で栄養剤を注入すると、すぐに死に直結してしまうことになるのです。注入する前に口の中を観察して、チューブが口の中でトグロを巻いていないかどうかを確認している介護者は多いと思いますが、注入のたびに先端の位置確認をレントゲンで行えるはずもなく、また超音波検査も実際には無理でしょう。

また、常に鼻先にチューブがあるため、意識的にせよ、あるいは眠っている間に無意識的にせよ、チューブを自己抜去してしまうリスクが、胃ろうと比較して格段に増えます。その度に再挿入しなければいけないので、上述した先端の確認作業をしなければいけません。

なお、このような偶発的な自己抜去を防ぐために、患者さんの手に手袋のような、ミトンと言われるものを被せることもよく行われていましたが、このミトン着用は拘束の一種とみなされており、できるだけ避けるようにと指導されています。

このように、経鼻胃管は胃ろうと比べてかなり不快であり、時として、虐待しているのではないかと考えられることすらあります。

胃ろうよりも経鼻胃管を選択した方がいいケース

それでは、胃ろうよりも経鼻胃管を選択した方がいいケースはどんなときでしょう。大きく3つの場合があると思います。

  1. ごく短期間で食事摂取能力が回復しそうな時
  2. 胃ろう作成までの時間稼ぎ
  3. どうしても胃ろうが作成できず、加えてそれに代わるべき食道ろうや腸ろうも出来ないような時

もちろん、人工栄養を投与すること自体を避けるという考えを排除しているわけではありません。

そのような考えも尊重すべきでしょうが、人工栄養を投与する場合には、上記3つのケースを除き、経鼻胃管よりも胃ろうからの投与を強くおすすめします。

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