コロナ禍が在宅医療に与えた影響|「最期に面会したい」ご家族の想い

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

コロナ禍が在宅医療に与えた影響

本当に幸いなことに、2021年12月の第1週の時点で日本では新型コロナウィルス感染症の第5波は収束したと言っていい状況になりました。

とはいえ、オミクロン株などの変異株が次から次に出てくるのは、ウィルスとしての本質ですから、今後も油断せずに、しかし経済活動は停止させないよう日常生活を送っていく必要があります。

このコロナ禍は、在宅医療にどのような影響をおよぼしたでしょうか。最も大きな影響は、東京都での医療体制破綻の状況下で、重症、中等症の自宅療養者に対して急性期医療を提供したということだと思います。

従来の在宅医療は、大まかな身体状況などについて前医から情報提供を受けたうえで、あらかじめ診療に関する契約をして、定期的に訪問診療を行うというものでした。

しかし、この自宅療養者への在宅医療の提供は事前情報がほとんどなく、ときには命に関わることもあり得る急性期の患者さんに対して、診断機器などほとんどない状態で挑んでいく。しかも医療提供者にも感染のリスクが高くなるという、コロナ禍はまさに全く新しい領域への挑戦でした。

上記のことが、コロナ禍がおよぼした在宅医療に対する最も大きな影響だったとは思いますが、もうひとつ、見逃せない大きな変化があったと思います。

コロナ禍で顕在化した患者さんやご家族の想い

それは、人生の最期にご家族(友人や親しい人を含む)と過ごしたいと考える患者さんや、逆に人生の最期を迎えるご家族を是非自分たちで見送りたい、看取りたいという人の潜在的な願望が顕在化したことです。

現在、在宅医療の現場には、「コロナ禍で病院では面会が許されないので、最後の数日だけでも自宅に引き取って最期の別れの時間を共有したい。だから訪問診療に来てほしい」という依頼が次から次へと舞い込んできます。

このような場合、短い人で自宅に戻ってから数時間で息を引き取ります。長い人で、まれに1ヶ月を超えることがありますが、多くの患者さんは、数週以内にお亡くなりになります。

そして、このように大変短い時間ではありますが、最期の時間を共有することができたご遺族は、「自宅で看取れて、本当によかった。急なお願いだったのに、迅速に対応していただき、感謝しています」と、私たち在宅医療従事者に対して感謝の言葉を口にされます。

在宅医療を希望する方の増加と医療従事者の想い

一方、受け入れてきた医療機関側はどうでしょうか。次々と紹介されてくる、死を間際にした患者さん。

本来なら私たちも、患者さんご本人、ご家族に寄り添いたいのです。しかし、そのような時間は、今回のコロナ禍による緊急退院、短期間での看取りの状況では許されません。ですから、少しストレスがかかっています。

それでも短い時間に想いを込めて、診療しています。だからこそ、患者さんやご家族からの感謝の言葉はとても嬉しいものです。

コロナが収束しても在宅医療希望者は減らない

ところで、このようなうねりにも似た世の中の変化は、今後新型コロナ感染症が終息したとき、元に戻るでしょうか。私は元に戻らないと思っています。

今まで国民に、さらには病院などで勤務する医師を含んだ医療従事者にすら、在宅医療というものが十分に認識されず、それゆえに、最期の時を在宅でという選択肢が浸透してこなかったのだと思っています。

それが、このコロナ禍で在宅医療が多くの人たちにとって身近になりました。そこで、ごく短期間ではあっても、単にご家族が最期の時に一緒にいられたという物理的な状況だけでなく、大きな満足感、達成感をもたらすということに気がつき始めたと思うからです。

国も在宅医療への転換を推し進めています。病院は病気や怪我を治療するところであって、急性期の治療が終わったら、できるだけ早く、慢性期の病床やリハビリ病院、さらには在宅へ誘導するようにしています。

これは主として医療費用の面からであり、また散在する医療資源を有効に利用したいということであると思います。個人レベルでも、経済的な理由でやむをえず、自宅で面倒を見ている人もいるでしょう。

実際には、患者さんのご家族が介護に疲れ切ってしまい、病院に戻って最期を迎える方もいます。また、在宅といっても施設入居者の場合は多少異なるでしょう。いろいろな状況、場合はありますが、在宅医療はやはり、心の医療なのだと思います。

是非みなさんも、ご自身が、あるいはご家族が、さらには親しい友人が最期を迎えそうなときには、在宅医療を大切な選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。

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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門医

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