透析とは?在宅腹膜透析が緩和医療と呼ばれる理由を解説

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

コロナの第6波もいよいよ収束に向かっています。(2022年2月執筆時点)

あい友会本部のある太田市の周囲ではまだまだ施設などでクラスターが発生していますが、それもあと少しで収束していくでしょう。待ちどおしいですね。

その新型コロナウイルス感染症のニュースの中では、1週間前くらいに透析患者さんがコロナにかかった場合の、透析ベッドの不足が報じられました。それはそのはずです。

一般に行われている透析と言えば、血液浄化療法の中の「血液透析」のことを指し、透析クリニックなどで、1日4時間ぐらい、週に3日ほどかけて行われています。

そして20人から40人くらいの患者さんが同時に同じ空間で4時間かけて透析を受けるので、基本的に感染症の広がりにはとても弱いのです。

ですから、コロナ感染症について言えば、感染者が1人でも出れば、どうやって隔離しながら透析を行うか、また濃厚接触者も多数出ると思われるので、その方達の間で感染を広げないためにはどうしたら良いかなど、考えていかなくてはならない事が山積します。

とても大変な状況だろうなと、考えていました。

このような時にどうしたら良いのか、、、

その解決策の一つが、在宅での血液透析であり、また可能なら在宅での腹膜透析ではないでしょうか。

今回は、そんな透析について、血液透析、腹膜透析とは何なのか、その違いや、在宅腹膜透析と緩和ケアの関係についておはなししたいと思います。

血液透析とは

血液透析と腹膜透析は、どのように違うのでしょうか。

両者とも、腎臓の機能が落ちて腎不全に陥ったときに用いる血液浄化療法ですが、血液透析は、患者さんの血液を直接体外に出して、濾過膜を通してきれいにし、また体内に戻すというものです。

とても効率の良い方法ですが、血液を体外に出す処置が加わるために、脱水気味の患者さんだったり、体力が弱っている患者さんだったりすると、透析開始時に血圧が下がってしまって、透析実施そのものができなくなってしまうことがあります。 

腹膜透析とは

もう一つの血液浄化療法である腹膜透析は、腹腔内に透析液を入れて、腹膜を通して体内の老廃物を透析液の中に出し、逆に透析液の中の糖分を主体とした栄養素を体内に取り込ませます。

ですから、体力が衰えてしまった患者さんでも、血圧が低下することなく行えることが多く、また糖分が体内に吸収されるので、かえって元気になることもあるくらいです。

腹膜透析の「PDファースト」、「PDラスト」とは

さて、腹膜透析について少しお話ししていきたいと思います。

血液浄化療法は、大きく血液透析と腹膜透析に分かれますが、血液透析は、週に3回、1回につき4時間くらい、病院やクリニックなどで施行されます。
時間的に拘束されてしまうために、仕事を継続するのは極めて難しくなってしまいます。
それに比較して腹膜透析は、夜寝ている間に透析を行うこともできるので、仕事と両立することも可能です。

ですから、透析を導入しなければいけないけれど、仕事もバリバリしたいと考えている人は、最初に血液透析でなく腹膜透析を選ぶことがあります。

これを「PDファースト」と呼びます。PDとは腹膜透析のことです。

これとは対照的に、血液透析をしていた人が、体力がなくなり、血液透析に耐えることができなくなって、腹膜透析に移行していくのを「PDラスト」と言います。

腹膜透析患者さんも通常は月に一度くらいは、クリニックなどに通うのが通例ですが、それもできなくなって、訪問診療を受けながら、外来通院することなく腹膜透析を受けることを、在宅腹膜透析と呼んでいます。

今まで私たちは、この在宅腹膜透析を10人あまりの患者さんに対して行い(2022年執筆時点)、中には一年以上続けることができた患者さんもいて、「PDラスト」の素晴らしさを体験してまいりました。

みなさんにも、このような治療法があるということを知ってもらい、必要な患者さんがいらっしゃったら、ご紹介いただければと思います。

在宅腹膜透析が緩和医療と呼ばれる理由

さて、在宅腹膜透析についてお伝えしてきましたが、書きすすめているうちに、これは、緩和医療のひとつだなということに気が付きました。

少し説明したいと思います。

在宅腹膜透析が必要な方

腎臓が機能しなくなって、あるいは血液透析ができなくなって、いわゆる腎不全の状態になった方は、最後どのようになってお亡くなりになっていくのでしょうか?

命に関わる状況として、大きく分けると2つあります。

1つ目は、腎臓から排泄されるべき老廃物や電解質が排泄されなくなり、体の機能が落ちていってなくなってしまう状態。

これには血液中のカリウムが上がって、心臓が止まってしまうことも含まれます。このような原因でお亡くなりになる場合は、言いようのないだるさがあるようですが、次にご紹介する場合と比較すると、比較的穏やかに最後を迎えられます。

2つ目は、腎臓から排泄されるべき水分が排泄されなくなり、体の中、特に肺に水が溜まってしまって、酸素を取り込めなくなる状態。

これを「溢水(いっすい)」と呼び、まさに溺れたような状態が長く続くのです。

ですから、このような状態でお亡くなりになる場合には大変な苦痛を伴います。

様々な理由で、もう透析はしないと決断される方はいらっしゃいますが、その場合でもこのような「溢水」の状態になってしまうと、やっぱり透析をしてくれと言われる場合が多いのです。
このような状況の人に腹膜透析を行うと、劇的に息苦しさから開放されることもあるのです。

痛みをとることだけが緩和医療ではない

緩和医療というと、痛みをとることを中心に考えますが、このように透析を最後まで継続することも、とても大事な緩和医療だと思われます。

あい友会では、この在宅腹膜透析以外にも、緩和医療として、緩和口腔ケア、緩和リハビリなどという概念を構築しながら、幅広い緩和医療を提供しようとしております。

そして、その提供場面では、連携している皆さんに多くのご協力をいただいており、本当に感謝しております。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

では!

参考文献

「あい」のメルマガ(連携編)≪透析患者がコロナに感染 …在宅では何ができるか -1- ≫ №57-2022.02.25号

「あい」のメルマガ(連携編)≪ 腹膜透析の選択/在宅では何ができるか -2- ≫ №58-2022.03.04号

「あい」のメルマガ(連携編)≪ 腹膜透析も大事な緩和医療/在宅では何ができるか -3- ≫ №59-2022.03.11号

※このコラムは、医療法人あい友会メルマガ「あいのメルマガ」を再編集したものです。

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この記事を書いた人 野末 睦
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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門指導医

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