キャリア

【医師のキャリア/転職】教育現場で伝える在宅医療の「全体像」【訪問診療】

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

看護学校講義のブログのアイキャッチ。医療法人あい友会理事長野末睦による理事長ブログ

さて、今日は、看護学校での講義で取り上げたテーマをご紹介しながら、在宅医療が現代社会についてどのような位置づけにあるのかを少し書いてみたいと思います。

看護学校の1年生を対象とした「医療概論」ということで、在宅医療の全体像だけでなく、医療をとりまくアプリオリな価値観やデジタル化、社会、経済など、幅広く取り上げました。

多様化する価値観と「アプリオリ」のない在宅医療

講義では、「アプリオリのない世界」というテーマでいろいろと話しました。

アプリオリとは、経験に先立って存在する、または経験から独立して認識されるという意味で使われています。

そして、かつては、例えば「神」みたいな、絶対に正しい存在みたいなものがアプリオリとしてあったけれど、それが現在では、完全に崩れ去っている。

このような中で、医療を提供していくということの難しさみたいなものを、話してみました。

延命を巡る多様な価値観|正解の無い問題に向き合う

例えば、「延命」に関すること一つをとっても、いろいろな価値観が乱立しています。

さすがにかつてのように、「何がなんでも生かしてくれ」とか、「1秒でも長く生かしてくれ」みたいなことをおっしゃるご家族はいなくなりましたが、それでも、「亡くなるところは病院でなければ」とか「病院に入院できたから安心」みたいな発言はよく聞きます。

また国際的なことで言えば、ウクライナ側で医療に携わることが、とてもいいこととされたり、パレスチナで国境なき医師団として活躍した人が、その悲惨な状況を語ることによって、他方を一方的に悪く言ったり。

でもこれからの世界では、戦争が起こった時に双方の事情に耳を傾け、冷静に行動することが求められるように思うのです。どちらかが一方的に正しい、言い方を変えると、100%正しいということはないと思うのです。

複雑な世の中、情報が瞬時に飛び交う世の中。生きにくいと考えるか。興味深いと考えるか。

私たちそれぞれに、その場その場で思考をめぐらし、少しでも適切な対応をすること、そんなことが求められるようになったと、看護学校1年生にお話ししています。

在宅医療でも広がるDX化・AI活用

受講している生徒たちは、看護学校に入ったばかりの1年生ですので、医療的なことの常識はもちろん、社会の激しい動きについても、なかなか理解が進んでいないという現状です。

たとえば、
デジタイゼーション
デジタライゼーション
デジタルトランスフォーメーション(DX)
という用語について、少しでも聞いたこと、あるいは認識したことのある学生は、50人くらいの中でたった1人でした。

ちょっとがっかりしましたが、それこそ教え甲斐があるなと感じました。

そして今や生成AIの時代。在宅医療分野でもDX化は進んできており、当法人でも通常業務でのAI活用や、AIカルテの導入などを進めている最中です。

講義の中でもChatGPTを使って、いくつかの臨床課題を調べてみようかと思います。

人によっては、生成AIはインターネットの普及と同じくらい、あるいはそれ以上のインパクトがあると言っていますので、それをデジタルネイティブであるはずの看護学生さんの講義に使ってみるのは、とても有意義でないかと考えています。

在宅医療と社会・経済のかかわり

講義の最後の2コマでは「医療と社会」、また「経済と医療」という2つのテーマでお話ししました。

医療費亡国論と医療経済

医療経済の内容だと、どうしても1983年に、当時の保険局長が主張した「医療費亡国論」に触れないといけないですね。

私が考えるところでは、この「医療費亡国論」は間違っていたと思うのですが、その内容そのものより、「医療費が伸びることは悪である」という固定概念が広く国民全体に広まってしまったことが、日本社会にとって、大きな負の遺産ではないかと話しました。

教科書の医療費増加のグラフでは、対国民総生産での伸び率が高いとか、掲載されていますが、その間の高齢化率の伸びを勘案すると、高齢者1人当たりの医療費はどうなるのか。

さらには防衛費の伸びとの比較をしてみたらどうなるのか、といった視点が欠如しているのではないかと、学生さんに話しました。

医療においては高齢者が大事な消費者になるわけです。
また生産年齢に当たる人は、医療を生み出す人たちです。

せっかく生産しても、医療への消費が減ると、みなさん、路頭に迷うことになるのです。
保険財政が厳しくなってきたら、税金を投入するのも選択肢になるのです。

こんなことを医療概論で話したのですが、さて、来年も医療概論の講義の依頼は来るでしょうか?
学生さんからの評価があまり低い場合は、遠慮なく首にしてくださいと伝えて、看護学校を後にしました。

映像でみる在宅医療の全体像

また、講義の中で使う映像について、お話ししたいと思います。

1年生に、在宅医療というか訪問診療の全体像を理解してもらうには、なんといっても群馬テレビのビジネスジャーナルで放映された、13分ほどの放送を見ていただくのが一番です。

そこには私の想いとか、診療風景、そして訪問診療に携わっている事務の方の意見、看護師の想いなどが、とてもよくまとまって表現されています。

さらに講義では、患者さんのインタビュー動画を使います。

自分のがんがかなり進んできてしまっていることを理解している患者さんが、訪問診療を受けていることへの感想などを淡々と語ってくれています。

独居の男性版と、アパートの自室に模した施設の部屋でくつろぐ女性版があります。

撮影してから7、8年経ちますが、今でも毎年その動画を使って、患者さんの想いを学んでもらっています。

なんとありがたいことでしょう。

在宅医療と教育を通した地域への恩返し

10年ほど前、講義のオファーを頂いた頃もとても忙しかったので、正直お受けするのは難しいと思ったのですが、お誘いいただいた看護師さんがとても熱心だったこと、太田市に在宅医療の教育をできる方が少ないだろうなという感触があったこと、そしてそろそろ私も、教育を通じて、今までお世話になった医療界、広くいえば日本社会に恩返しをする時期になってきたのではないかと感じたことなどから、思い切って引き受けることにしたのでした。

最初の年は、スライドを一から作らなければいけなかったのでとても大変でしたが、幸い色々なところで在宅医療に関して講演会をしたり、勉強会で話していたりしたので、材料はたくさんありました。

それに加えて、話すことが結構好きな私ですので、まあまあ乗って話すことができたような気がします。

結構評判が良かったようで、その後、太田市の看護学校全てから講義を依頼されるばかりでなく、館林の看護学校からも依頼されるようになり、2024年も計4ヶ所の看護学校で、合計すると約30コマの講義を行いました。

また、やはり映像の力は大きいので、今後も動画をどのように撮影して、どのように講義にとりいれていくか、考えながら診療にあたって行こうと思います。

撮影の際は、皆さんご協力くださいね!

では、また!!!

参考文献

「あい」のメルマガ(連携編)≪新シリーズ|看護学校の講義≫№171-2024.05.03号
「あい」のメルマガ(連携編)≪新シリーズ|看護学校の講義2≫№172-2024.05.10号
「あい」のメルマガ(連携編)≪新シリーズ|看護学校の講義3≫№173-2024.05.17号
「あい」のメルマガ(連携編)≪アプリオリのない世界|看護学校の講義4≫№174-2024.05.24号
「あい」のメルマガ(連携編)≪若い世代が意外と知らないデジタル用語…そしてAI活用|看護学校の講義5≫№176-2024.06.07号
「あい」のメルマガ(連携編)≪「医療と社会」「経済と医療」|看護学校の講義6≫№177-2024.06.14号
「あい」のメルマガ(連携編)≪映像を有効活用|看護学校の講義7≫№178-2024.06.21号

※このコラムは、医療法人あい友会メルマガ「あいのメルマガ」を再編集したものです。

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この記事を書いた人 野末 睦
医療法人あい友会 理事長
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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門指導医

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