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【訪問診療 体験談4】安心したよ 〜お亡くなりになる数日前の言葉〜

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渡辺さんと初めてお会いしたのは、しっかりとした日本家屋であるご自宅でした。

床の間のある和室に電動ベッドが運び入れられ、そのベッドの上で、布団を背中に渡辺さんが座っていらっしゃいました。

やや顔色がお悪いものの、口調は穏やかで、周りを取り囲んだ奥さん、お子さんの前で、思い出話などを語っておられました。

その部屋に入ったとき、正直、「あれ?」っと、思いました。

なぜなら、その前日夕方に、渡辺さんの担当ケアマネから、ある病院から退院して外来通院を始めた患者さんが、体力的に外来に行けなくなってしまったので、診てほしいという依頼があり、急いで駆けつけたからです。

話に聞いていたイメージと、この部屋に入っていったときに受けた、温かで和やかなイメージとは、かけ離れたものでした。

そこに違和感を持ったのです。

患者さんからの「安心した」という言葉

私が初訪問に伺うということで、その部屋には、担当のケアマネ、訪問看護ステーションからの看護師も集まってくれていました。

その看護師がいうには、その日は前日までとうって変わってお元気だとのこと。

その言葉を聞きながら、私は渡辺さんに自己紹介をしました。

「ご自宅に伺って診療をすることを中心に行っている、あい太田クリニックの院長の野末です。これから毎週、このご自宅に伺って診療していきますのでよろしくお願いいたします」

「それにしても、立派なお宅ですねえ」

 初対面なので、少しでも親しみを感じていただけるようにと、家の話題をふってみました。

そうすると渡辺さんは、とうとうとお話を始めたのです。

自分の父親がこの地で家業を始めたこと。

それが少しずつうまくいくようになって、自分が後を継ぎ、さらに発展させたこと。

この家も数年前に、家業と同じ敷地に建てたこと。

仕事一筋で生きてきたこと。

そのようなことを、話し続けたのです。

私はその話を興味深く聞きながら、何か具合の悪そうなところはないか、観察していました。

長い話でしたが、呼吸は乱れず、話の筋もよく通っていて、全身に大きな異常はないようです。

もちろん麻痺などもありません。胃癌で、多発肝転移があり、化学療法を受けたけれど効果がなく、副作用で白血球が減ってしまって、その治療を受けるために、入院。

そして、退院してきたばかりでした。外来で点滴治療を継続する予定だったものの、本人が極度のだるさを訴え、外来通院できずに、私たちにお呼びがかかったのでした。

結局差し迫った状況ではないと判断した私は、通常の点滴を訪問看護師さんに指示して、おいとましました。その直前に渡辺さんは、私にこう言ったのです。

「ああ、これで安心した」

この言葉をお聞きした時、私はじっと渡辺さんの目をのぞき込みました。

少し驚いたからです。

自分はがんの末期状態ということを知っている。

治療法がなくて、しかも治療の副作用で入院してきたばかり。

外来に通う体力さえ残されていない。

そのような状況で、なぜ「安心した」と言えるのだろうか。

でも間違いなくそうおっしゃったのです。

この言葉の意味するところを、いろいろ想像しながら、帰途につきました。

繰り返す低血糖発作

すると、翌早朝のことです。ご家族から、本人の様子がおかしいと電話が来たのです。

呼んでも起きないと。

呼吸はしているようだとも。

昨日の元気な様子からは想像がつきませんでしたが、私はあわてて渡辺さんのお宅に向かいました。

渡辺さんの顔色は蒼白で、ゆっくりとした呼吸。大きな声で、体をゆすりながら呼びかけると、わずかに反応したようですが、もちろん答えることはできません。

何が起きてしまったのでしょう。

麻痺などはないようです。

額に触ってみると、冷や汗をかいているではないですか。

私は、もしやと思い、ちょうどその時到着したクリニックの看護師が持っていた血糖測定装置で血糖をはかりました。すると、なんと38。

原因はよくわかりませんでしたが、低血糖発作でした。

急いで高濃度の糖液を注射したところ、注射している途中から意識が戻りはじめ、注射が終わるころには、かなりはっきりと受け答えができる状態になりました。

低血糖の原因がわからなかったので、病院の再受診を勧めましたが…

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