在宅医療を受ける前に知っておきたい4つの準備
目次
在宅医療にも外来同様にマナーや準備がある
かつて病院で外来をやっているときには、「今日は具合が悪いので、病院にはいけません」という連絡が時々入り、外来を休む人がいました。
「病院は具合が悪いから来るところなのに、変だな」と思ったのですが、病院への往復、外来での数時間におよぶこともある待ち時間、患者さん同士でうつし合ってしまうかもしれない感染症などのリスクを考えて、体調が具合悪いときはかえって、通院を延期してしまうのです。
術後の経過観察などで通院している人は、このようなこともあってもおかしくないですね。加えて、外来受診の時のマナーみたいなものも、皆さんご存知ですよね。
たとえば、顔色や爪の色をみるので、お化粧やマニュキアは控えめにしておくとか、香りに弱い人が多いので、香水は基本的につけていかないとか。
聴診を受けると思われるときには、胸部を出しやすい服装にしていくとか、足を診てもらうときには、タイツを履いていかないとか。
このように通常の外来診療を受けるときには、それなりのマナーみたいなものが、皆さんのなかに形成されていると思うのですが、在宅医療においては、まだまだそのようなものは形成されていません。
在宅医療というものが制度的にしっかりしてからまだ日が浅いのですから無理もないでしょう。
今回は、こんな状況も踏まえて、在宅医療を受けるときに必要な常識的な知識や準備、配慮について、まとめてみたいと思います。
在宅医療を受ける前に知っておきたい準備
在宅医療を受ける前に知っておきたい、そしてやっておきたい準備が4つあります。
- 介護保険で電動ベッドを借りる
- ご家族が同席しない場合メモを用意する
- 1時間前に喫煙を済ませて喚起する
- ペットがいる場合は一声かける
それぞれ紹介していきます。
介護保険で電動ベッドを借りる
まず住宅、療養環境についていくつか挙げてみたいと思います。まず高齢者の方は普段畳に布団を敷いて寝ている人が多いと思いますが、在宅医療が必要になったような状況では、基本的にベッドで療養するようにするのが基本です。
介護保険を用いて電動ベッドを借りることができるので、ぜひ借りて準備していただきたいと思います。
ベッドのほうが患者さんの立ち上がりや上半身のギャッジアップが容易になるばかりでなく、介護しているご家族、更には医療スタッフによる医療行為、看護、介護が、格段に楽になるからです。
また同時に、寝返りを自力でできる方は、体圧分散マット、自力での体位変換ができない方はエアマットを借りることが褥瘡(じょくそう)発生予防のために必須です。
そしてベッドを置く場所は、寝室である必要はありません。家の状況、その患者さんの家庭での役割などに応じて、もっともふさわしい場所で、しかもできるだけベッド周囲にスペースが取れるところが良いでしょう。リビングにベッドを置いている方も多いようです。
そして診察のときには、患者さんと目線の高さを同じくらいにするために、腰掛けて診療する医師も多いので、丸椅子などを準備していただけるといいと思います。
ご家族が同席しない場合メモを用意する
時々、自宅に他人が入ると疲れるから、訪問回数を減らしてくださいという要望を受けることがあります。
確かに、医師による訪問診療、訪問看護ステーションによる訪問看護、ヘルパーによる訪問介護など、多くのサービスを受けると、そのたびに家をきれいにしなくてはとか、訪問時に家族が同席しなくてはとかの事情で、全体の訪問回数をできるだけ減らしたいと考える人もでてきます。
ですが、一般的には、在宅医療を受けるために部屋を掃除しなくてはいけないとか、訪問のたびにご家族が同席しなければいけないということはありません。ご家族が同席できない場合には、メモなどで病状を伝えていただければ十分なのです。
1時間前に喫煙を済ませて喚起する
ただ、タバコについてはご配慮いただくといいと思います。タバコのニオイに敏感な医療従事者も多いので、訪問する1時間前までに喫煙は済ませて、その後換気を十分にやっておいてもらいたいと思います。これは訪問診療を受ける際のエチケットだと思います。
ペットがいる場合は一声かける
その他に、ペットに関しても少し考慮が必要です。
ペットは在宅療養の際にとても重要な役目を果たすので重要ですが、猫の毛に対するアレルギー、犬に対する恐怖などを持つ医療スタッフは少なくありません。
訪問してくる医療スタッフに声をかけていただき、診療中にどのように対処したらいいか相談していただけるとありがたいと思います。
在宅医療従事者は「患者さんの人生」を知りたい
在宅医療に携わる医師などの医療従事者は、患者さんの人生そのものに興味をいだき、その人生が意義深いものだったということを、ともに喜びたいという欲求を持っています。
ですから、患者さんの人生とともにあった数々の品を一緒に拝見し、その物語を聞くことをとても喜びます。
まずは、ベッドの傍らに飾られたお孫さんなどの写真から始まって、飾られている賞状、更には勲章。これらを素早く見つけて、話を振ってくることでしょう。その時はどうぞ遠慮せずに、そのものにまつわる物語を思いっきり語ってください。なかには、ご自分で撮影した写真集を発行された人もいました。また、作家の開高健との釣りの写真を飾っている方もいました。
また、若かりし頃の水泳の写真、そのときの記録などを持ち出された人もいました。数えあげれば切りがありませんが、みなさん、それぞれ、思いっきりの人生を歩んできています。訪問診療医は、そのようなお話を伺うのが、何よりの楽しみなのです。
今はコロナ禍にあります。患者さん宅での飲食は、感染防止の観点から、禁止されていることが多いと思います。
それでも、患者さんのベッドを囲んで、車座になって、患者さんの人生の軌跡をたどるときこそが在宅医療の醍醐味なのだと思います。早くコロナ禍が終息して、お茶でもいただきながら、ゆっくりと話に花を咲かせたいものです。
訪問診療に伺うと、ときとしてお土産をいただくことがあります。もちろん、お土産は必要ないばかりか、いただくのは基本的には禁止されています。
ですが、庭で取れた柿やいちじくなど、嬉しく、ありがたくいただいて帰ります。これも患者さんの、そしてご家族の人生だからです。