口腔ケアとは?口内保湿の効果と黒岩メソッドを解説

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

口腔ケアとは

口腔ケアとは、従来、口のなかをきれいに保つことを意味して呼ばれてきましたが、最近歯科関係の学会では「口腔健康管理」と総称されるようになりました。

そして「口腔健康管理」のなかには「口腔衛生管理」と「口腔機能管理」が含まれます。つまり、「口腔健康管理」には、きれいにすること(衛生管理)と機能を保つこと(機能管理)を含んでいるということなのです。

この体系のなかでは、「口腔ケア」は他職種と共同して行う口腔健康管理の一部と定義されています。しかし、ここでは皆さんに馴染み深い「口腔ケア」と言う言葉を「口腔健康管理」とほぼ同義に位置づけて使っていきます。

口腔ケアの効果は「口内保湿」

「口腔ケア」の最初のステップは、口腔内を湿潤環境(湿っている状況)にすることです。言葉を変えると保湿です。

患者さんの口腔内は、ほとんどの場合「からから」に乾いています。特に、今のような冬の時期は乾燥しやすい環境です。

ただでさえ大気が乾燥しているなかで、暖房による湿度の低下、さらに最近は暖房のためにエアコンや電気毛布などを用いていますが、これらは石油ストーブの燃焼時のように水分を出さないので、より乾燥しやすくなっています。

次に、患者さんの多くは、起きているときは鼻呼吸でも、眠っているときは口呼吸になっています。眠っている、あるいは意識レベルが下がってくると口呼吸の時間が増えて、前述のエアコンによる空気の流れの影響も加わり、口のなかが「からから」になるのです。

さらには、酸素投与を受けている患者さんの場合は、その酸素の流れによって、さらに乾燥していってしまいます。酸素には加湿していないことが多いので、ほぼ湿度0%の気体が流れていきます。過酷な状況ですね。このような理由で、患者さんの口腔内は「からから」です。

そんな患者さんの口腔内に、「のみや水」という水分を多く含んだゼリーと保湿ジェルを混ぜて、モアブラシなどの柔らかいブラシにつけて、口腔内全体に広げていきます。手袋をした指にのせて広げることもあります。

その時に舌の周囲にある筋肉や頬の筋肉も少しずつほぐしていきます。そうすると、唾液の分泌も促されて、より湿ってきます。

がん患者さんにも効果的な緩和口腔ケア

口腔内が湿ってくると、舌の上に苔のように付着している舌苔と呼ばれるものがあるときは、自然にはがれてきます。舌苔は、細菌や食べ物が舌の上にこびりついたもので、口臭の原因などになっていますので、それが自然に取れてくると、患者さんご本人はもちろん、ご家族もとても喜びます。

舌苔を固い舌ブラシでそぎ落とすようなことは避けます。傷がついてしまいますし、患者さんも痛いので、次回の口腔ケアが困難になってしまうからです。

このように口腔内が湿ってくると患者さんはとても楽になります。がんの終末期の方も、口腔内が乾燥していることがほとんどですので、保湿ジェルを塗るだけでも、患者さん自身はとても楽になります。

がん性疼痛のコントロールだけが緩和ケアではなく、このように口腔内の保湿だけでも症状緩和になりますので、「緩和口腔ケア」と呼ぶこともあります。

もう一段階進んだ口腔ケア「黒岩メソッド」

口のなかが潤ったあと、歯茎のマッサージ、歯みがきなどを行い、一応の口腔ケアは終了です。このようなケアを受けた患者さんは、皆一様に笑顔になります。

うまくすると、鈍くなっていた味覚が戻ったり、唾液分泌が増えて、食欲さえも増したりするのです。そして、ご家族や介護士を含むいろいろな職種が協同できる「口腔ケア」に、さらに専門家が加わってくると、もう一段階進んだ「口腔ケア」を行うことができます。

たとえば歯科医師が関与できる場合は歯石除去、う歯(虫歯)の治療、義歯(入れ歯)の調整、動揺歯の抜歯などが行えるようになります。このことにより、口腔内の衛生状況がより改善し、さらには咀嚼機能が改善するので、食べ物の飲み込み機能も向上する可能性が出てきます。

さらにもうひとつ、かなり専門的ではありますが、多くの重症患者さんを救ってきた「黒岩メソッド」と呼ばれる口腔ケア法を簡単に紹介します。

口腔ケア「黒岩メソッド」の効果

神奈川県で開業している歯科医師、黒岩恭子医師が20年ほど前に開発し、全国行脚してその普及を図ってきた方法です。この方法は、口のなかを清潔にするだけではなく、その先の摂食嚥下をスムーズに行うことを目指したものです。

そのステップは、まずは姿勢を整え、両足の足底をしっかり床につけることから始めます。姿勢が整ったところで、全身の筋肉のリラックスを図るのですが、そのときには多くのバランスボールを使います。

紙屋克子看護師がリハビリ分野で開発した方法を、黒岩医師が「口腔ケア」の分野に持ち込みました。

全身の筋肉がリラックスして、姿勢も整えられた状態で、前半でお話した口腔内を保湿し、清潔にしていきます。

そして最後に、口蓋垂の奥側、中咽頭部の湿潤を図ったあと、特殊なブラシを使って、咽頭にこびりついた粘液、痰を取り除くのです。「咽頭ケア」と呼んでいますが、その部分のこびりついた汚れは、吸引では決して引くことはできないのです。この「咽頭ケア」をしっかり行うことができれば、誤嚥性肺炎も激減します。

まずは、入り口の「口腔ケア」を実践していただいて、少しでも、患者さんが楽になればそれにまさる喜びはありません。そして、その先の専門的な「口腔ケア」を実践している訪問診療クリニックを探して、受診していただくと、その大きな効果を実感することができます。「口腔ケア」は自宅療養のキーポイントなのです。

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