ベストサポーティブケア(BSC)とは?訪問診療において重要なQOL向上のポイント

野末 睦
医療法人あい友会 理事長
野末 睦

医療業界ではよく聞かれる「BSC」という言葉。読者の中には「BSCって何?」と思われる方も多いかと思います。今回は、ベストサポーティブケア(BSC: Best Supportive Care)の話をしていきたいと思います。

私も以前、退院調整会議で病院の医師から「今後はBSCでいきたいと思います」なんて言われた時に、「それ、なんですか?」と尋ねたのを覚えています。

診療情報提供書にも「多発骨転移に対して、抗がん剤治療を行ってきましたが、病状は進行し、今後はBSCの方針となり、退院の方向となりました」と書かれていました。

ベストサポーティブケア(BSC)とは?

BSCとは、腫瘍学の臨床試験分野で使われていた言葉で、「がんに対する積極的治療を行わずに症状緩和の治療のみを行うこと」と定義されています。痛みの緩和だけでなく、QOL(quality of life)の維持向上も含む概念です。

このBSCという言葉は曖昧なニュアンスで「病院医療の一方的な撤退宣言」のように使われていることが多いのではないかと思われます。

真の意味でのBSCは、入院医療でも、在宅医療でも場所を問わず、患者さんにとって必要なことです。しかし、どちらかといえば在宅医療でこそ求められるものですから、あい友会では、まさに「痛みの緩和のみならず、QOLの維持向上」を目指していきたいと考えています。

そのキーになるのが、摂食・嚥下問題の解決であり、口腔ケアであり、栄養サポートであり、フットケアであり、もちろん疼痛管理です。

BSCで重要な「栄養サポート」

私たちあい友会では、BSCの中でも「食べることのサポート」をとても大事に考え、積極的に行っています。

栄養サポートに関して、あい太田クリニックには2名の管理栄養士がいますが、その2名が、栄養状態が悪い人、飲み込み機能が悪い人などに、積極的に関わって、少しでも多くの食べ物を、少しでも安全に召し上がっていただけるように、日々奮闘しています。

現在の日本では、中年では、いわゆる生活習慣病と言われる疾患に罹る人が多く、食事指導といえば、摂取カロリーをいかに減らし、塩分も減らし、ということに注力します。歳を過ぎた頃からは、むしろ栄養状態は悪化し、筋肉量も減り、活動度もどんどん低下してしまっている高齢者が目立ってきています。

ですから管理栄養士の指導も、たんに食事指導ではなく「栄養サポート」と呼ぶことにしたのです。

そして、この栄養サポートをどの患者さんに適応していくかを判断するために、全ての患者さんの栄養状態のスクリーニング検査を行なっています。それによると、私たちのクリニックに来る患者さんの約40%が低栄養状態であり、さらに40%が低栄養の恐れありとなっていて、全体の80%が栄養不良の状態であることがわかりました。

また最近の研究では、高齢者ではBMI26くらいの人が最も元気であることがわかってきています。つまり軽度肥満と判定されるくらいが丁度いいのです。

これを目指して、管理栄養士は、毎日5人から6人の患者さんのところに伺って、栄養サポートを行っています。

皆さんご存知だったかもしれませんが、高齢者には、高カロリー、高タンパクの食事がいいのです。体重は痩せている人は少しずつ増える、軽度肥満の人はそのまま横ばい、高度肥満の人だけ、少し痩せることを考えるのがいいのです。実は、高齢者には吉野家の牛丼、マックのハンバーガーなどは、結構理想的な食事なのです。

あい友会で行う栄養サポートの内容

あい友会の管理栄養士が栄養状態が不良の方にどのような栄養サポートをしているかについて、もう少し具体的に説明します。

現状の食事の把握

まずは現状の食事の把握です。食事全体が何カロリーか、タンパク質は十分に取れているかなどをチェックします。同時に体重の変化も把握して、全体としてカロリーが足りているのかいないのかの判断に使います。

たとえば、多くの施設では、男性も女性も、大柄な人も小柄な人も、ほぼ同じカロリーの食事が提供されています。おおよそ1,200kcalのことが多いのではと思いますが、普通に歩くことができる男性にとってはとても足りません。逆に小柄な女性にとっては多すぎる場合が多いようです。

また普通の硬さのごはんと、おかゆとでは提供されるカロリーが大きく異なります。もちろんおかゆになると同じグラム数でも、大幅にカロリーが減るのです。

食事メニューの提案と管理

当たり前だと感じるかもしれませんが、こんな簡単なことにも気が付かずに半年以上体重が減り続ける人も少なくないのです。

あと、お腹が空くので、おやつを施設の人に隠れて食べていた患者さん。施設の人に見つかって、間食は良くないと禁止され、半年で10キロ以上の体重減少になった人がいます。お菓子で何とか必要な栄養量を確保していたのです。

これは、悪気があって行っている施設があるということではありません。気が付かないのです。個人宅でも同じです。

このような方々に、ご飯にかけて摂取するプロテインパウダーを紹介したり、処方箋で処方できる栄養剤の提案をしたり、食べやすい食形態の食事を紹介したり、食べる時の姿勢をチェックしたりして、管理栄養士は頑張っています。

ぜひ、そんな彼女たちを目にしましたら、声をかけていただけると嬉しいです。目立たない職種なので、皆さんからの声掛けに、本当に勇気づけられると思います。

参考文献

「あい」のメルマガ(連携編)≪BSCこそが在宅医療の「きも」-1- ≫ №40-2021.10.29号
「あい」のメルマガ(連携編)≪BSCこそが在宅医療の「きも」-2- ≫ №41-2021.11.05号
「あい」のメルマガ(連携編)≪BSCこそが在宅医療の「きも」-3- ≫ №42-2021.11.12号

※このコラムは、医療法人あい友会メルマガ「あいのメルマガ」を再編集したものです

この記事を書いた人 野末 睦
医療法人あい友会 理事長
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総合内科 消化器外科 日本在宅医療連合学会 認定専門医

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