緩和ケアとは?患者さんとご家族を支える在宅医療
緩和ケアとは
緩和ケアとは、一般的には、がんや生命を脅かす疾患等により、身体的、精神的、社会的な苦痛や不安を和らげ、QOL(生活の質)の維持や改善をするための治療やケアのことをいいます。
「がんの痛みのコントロールや終末期のケア=緩和ケア」と思われる方も多くいるかも知れませんが、がんに限らず、心臓疾患や呼吸器疾患など、他の疾患に対するケアも適応とします。
また医療的なサポートにとどまらず、心理的(精神的)、社会的なサポートも含まれます。
患者さんへの緩和ケア
身体的、精神的、社会的な苦痛や不安を和らげるサポートを行う緩和ケアですが、次のような質問をいただくことがあります。それは、
- 終末期を迎えた患者さんにリハビリテーションや栄養サポートは必要なのでしょうか?
- どのようなリハビリテーションや栄養サポートを行うのでしょうか?
という質問です。「必要ですか?」の問いに対する私の答えは「はい(イエス)」です。
緩和ケアでのリハビリテーション
まずリハビリテーションの必要性についてお話をさせていただきます。
緩和ケアでのリハビリテーションは歩けない人を歩けるようにするなどの機能回復というよりは、機能維持に重点が置かれるかと思います。
例えば、
- 拘縮(こうしゅく:関節の動きが制限されることで動きにくくなること)を予防する
- 少しでも座った状態を維持する
- あるいは自分でトイレに行けるよう(できるよう)にする
等々です。
これらのリハビリテーションは褥瘡(床ずれ)の予防にも繋がりますし、動くことや動かすことによるマッサージ効果により、むくみの改善などの効果もあります。
また、オムツの交換を子供や他人にはされたくないと思う方も少なくありません。人間は最後まで羞恥心を持っているものです。ご自身でトイレに行く(する)ことで、身体的にも心理的にも負担を軽減することができます。
他には、洋服に着替えるなどの日常動作も、緩和ケアでの良いリハビリになります。入院中はほとんどパジャマや療養着姿で、限られた空間で寝ている(横になっている)時間が多いのは、みなさんも想像できますよね。
ですが、在宅での療養は、病院と違い、住み慣れた環境である程度自由が効くようにもなり、ご家族との会話も増えると思いますので、いろいろと刺激を受ける機会も増えます。
私は訪問診療の患者さんに、緩和ケアにおけるリハビリテーションの一環として、できるだけ日中は洋服に着替えてくださいとかお願いすることがあります。
診療に行くと「そのとおりにしてますよ」とばかりに洋服に着替えて、私達を待っていてくれています。ご家族は「さっきまでパジャマだったんですよー、先生が来るので着替えたんです(笑)」と。
また、ある患者さんは洋服に着替えたことで、ちょっと外の空気でも吸ってみようかと、外に出てみたり(出かけたり)、そうすることで心も体もONとOFFの切り替えができるようになったりと、それらの刺激が緩和ケアでの良いリハビリになります。
結果的に精神的な安定もしてくると考えています。
緩和ケアでの栄養サポート
それから、食べることの楽しみや喜びっていうのも大切ですね。こうしたら美味しく食べられるとか、飲み込めるとか、満腹感は幸福感にもつながるものです。そのための口腔ケアや嚥下(食べ物を咀嚼し飲み込み、胃まで送ること)の内視鏡検査やリハビリにも当院では対応(栄養サポート)をしています。
「食べること」や自分で「排泄すること」は生きていくうえで、当然の動作ですが、加齢や疾病により、こういった動作ができなくなってくると、生きていくうえでの自信をなくしてしまう方も多くいらっしゃいます。
できなくなってしまった(あるいはその可能性がある)動作を自立してできるということは「人間の尊厳を維持」するうえで、とても重要だと考えています。
ご家族への緩和ケア
緩和ケアとは、患者さんのためだけにあるのではなく、ご家族へのケアも緩和ケアの一環であることをお話したいと思います。
緩和ケアを受ける疾患に患者さんが罹患すると、家族も大きなショックを受けます。家族は「本人はもっとつらいのだから」と気持ちを抑えてしまうことも少なくありません。
その一方で、日常生活も維持していく必要が家族にはあります。そのような状況の中、患者さんの意思確認ができない場合は、ご家族にご意見(判断)を求めることも多々あります。
すると、ご家族の中には「あの判断は正しかったのだろうか?」「もっとこうしたら良かったのではないだろうか?」などの迷いや、中には自責の念に駆られる方もいます。このようなご家族への心のケアも緩和ケアには含まれるのです。
緩和ケアを受けた患者さんのエピソード
以前の話になりますが、緩和ケアのエピソードを2つ紹介したいと思います。
家に帰ってきた喜びと安心感
当院は電子カルテ用に、初診の際に、患者さんの顔写真を撮影していますが、その写真を遺影に使われたご家族がいらっしゃいました。
写真を取る際に「せっかくだからいい笑顔で撮りましょうよ」と提案したところ、その時の表情がとても良いとご家族がおしゃっていました。病院で療養していたら、そのような表情にはならなかったんじゃないかなと思います。
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心や精神的な支えの重要性
私が主治医をしていた患者さんですが、当時は80代の女性の方でした。いろいろな病気を抱え、ほぼ寝たきりの状態でしたが、認知機能はしっかりとしていた方でした。亡きご主人とは、大恋愛の末の学生結婚だったことや、その他にもご主人との思い出をお話してくださる「可愛らしいおばあちゃん」という雰囲気の方でした。
ある時診療に行くと、ほっぺたの上のあたりに出来物ができて、検査をしたらがんが見つかったのです。大きな病院で手術することになりましたが、顔にできたがんですので、ある程度の傷が残ってしまうことが想定されました。
しかしご本人は「最愛のご主人のもとには、キレイな顔で逝きたい」とおっしゃり、がんの摘出と形成外科手術の2回の手術をされました。最期までご主人への愛を懐き、自分らしくいたい(そして逝きたい)という姿勢がとても印象的でした。
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緩和ケアは広範囲に渡るサポート
いろいろとお話をしてきましたが。緩和ケアは、痛みや辛さからの開放というのが大原則なのですが、多職種が関わりながら、身体的、心理的(精神的)、社会的(医療、介護、福祉等の資源の活用)など広範囲に渡るサポートといえますし、また患者さんの生きてきた軌跡(過去)、現在、(残されるご家族への)未来のサポートとも言えるかと思います。
あい友会は、緩和ケア認定のドクターを中心に、薬剤師や看護師、理学療法士、管理栄養士等で構成される緩和ケアチームで、定期的にミーティングやカンファレンスを行うほかに、地域の医療・介護事業者と、アプリケーションやDXデバイスを活用し、情報を共有しながら、患者さんやご家族の希望に添えるケアを提供できるように、切磋琢磨しています。
もしご自身が、あるいはご家族が、さらには親しい友人が最期を迎えそうなときには、あい友会の在宅医療を大切な選択肢のひとつとして検討してみてはいかがでしょうか。
※このコラムは、あい太田クリニック院長ブログ「緩和ケアについて その1-その5」を再編集したものです。